9. 根抵当権変更を忘れていると、歯科診療所がつぶれる?
親子で歯科診療所を経営されていた、隼人先生(仮名)と、父の勝先生(仮名)。勝先生は、信用金庫より借入をし、最新の診療所設備を導入することで、患者様の人気とレセプト枚数を維持していました。過去に、デジタルレントゲン、レーザー治療機器、電子カルテシステム等、メーカーの営業マンと相談しながら購入していました。今回、歯科用CT設備を購入しましたが、メーカーとの取り決めにより(大幅な値下げをした)、設備が納品されるまで3か月も待たされていました。借りた設備資金でのメーカーへの支払いと収入反映にタイムラグがでて、資金繰りが厳しくなっていました。
幸い、勝先生は、不動産を所有していたので、地元の信用金庫から、根抵当権を設定してつなぎ融資を受けられましたので、なんとか資金も回せていました。信用金庫にとっても、しっかりとした担保を提供する勝先生は、万が一の時にも安全である貸出先だったのです。
そんな勝先生が亡くなってから5か月後、ご息子の隼人先生から、「信用金庫から、『早く不動産の手続をしないと、お金をもう貸さない』と言われ困っている、何とかしてほしい。」と相談がありました。

後日、不動産調査の結果、隼人先生は次のことを知りました。
■調査で発覚した問題点
根抵当権の債務者 |
●不動産に徹底されている根抵当権の債権者が、父になっている ●根抵当権の債務者を自分(隼人先生)に変更していないから、 信用金庫から融資を受けられない |
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根抵当権の変更期限 |
●根抵当権の債権者を自分(隼人先生)に変更できるのは、 父を亡くしてから半年以内であり、 あと1ヶ月であること(民法398条の8) 出来るだけ早くご相談を!
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早急に手続をする必要性を感じた隼人先生は、無事に根抵当権の債務者変更を済ませ、信用金庫から融資を受けることができました。
現在、隼人先生は、信用金庫と良好な関係を維持しながら、勝先生から引き継がれた診療所を切り盛りされ、矯正やインプラント等自費治療の分野にチャレンジしつつ、診療所を拡大されていらっしゃいます。
どの手続もそうですが、根抵当権の名義変更はできるだけ早くする必要があります。金融機関から融資を受けている場合や継続中などは、被相続人と相続人の担保能力がそれぞれ違いますので、早急に進めてください。
また、融資を完済された場合に根抵当権を残している場合がありますが、今後融資の予定がない場合には、抹消登記したほうがよいでしょう。しかし、融資予定がある場合は、極度額範囲で資金を借りることが出来ます。その際には、新たな担保設定をしなくてもよいので便利です。
歯科診療所の借入金は、設備購入のための借入や、人権費や薬剤費支払のための事業資金があります。それぞれの目的、金利、返済期間、担保の有無、金融機関先を考慮し、返済計画を考えたほうがよいでしょう。
- ●根抵当権の債務者を変更しないと、融資を受けられない。
- ●根抵当権の変更は半年以内に手続きを。
根抵当権とは
一定の種類の債権を、極度額を限度として担保するために、不動産に設定される権利です。ここでいう、債権とは、「お金を払ってください」と言える権利です。一定の範囲の債権とは、「お金を払ってください」と言える権利の発生する取引が、「銀行取引」「金銭消費貸借取引」といった具合に、一定の範囲に限定されている債権のことです。たとえば、銀行が、債権の範囲を「銀行取引」、極度額5,000万円で、お金を借りる方の不動産に根抵当権を設定したとします。この場合、銀行は、お金を貸す、返済を受ける、を繰り返しても、5,000万円の範囲で不動産を担保に取っている状況を維持できます。
民法 第398条の8(根抵当権者又は債務者の相続)