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特別レポート集

都市圏における訪問歯科診療の利用実態調査(考察編)

vol.1 はじめに

2種類の異なる訪問歯科診療

高齢者施設における訪問歯科診療の実態は、必ずしも明らかではない。訪問歯科診療は受診動機によって大きく二つに分かれるが、通常、明確な受診動機に基づく訪問歯科診療のみがクローズアップされる。すなわち訪問歯科診療には、高齢者本人や介護者が歯科診療の必要性を自覚することで始まるものと、高齢者を日常的に専門的な口腔ケアの必要な人たちと考えて医療サービスを提供するものがあるが、後者の実態は必ずしもあきらかではない。

訪問歯科診療については、ほとんどの地域の歯科医師会や市町村の高齢福祉担当が訪問歯科診療の受付窓口を設けており、医療提供側の在宅診療能力が十分であるかどうかは別として、ある程度、要介護者をかかえる家族や施設のニーズに応える体制が整備されつつある。また脳卒中、心臓疾患、糖尿病あるいはがん患者の退院後の口腔ケアについて積極的に病診連携を展開している事例も生まれている。

また、歯科医師会などの単位で、施設の訪問歯科診療の体制を整えている事例もある。事例は少なくないが、たとえば東京の品川歯科医師会は、会員のうち50人弱の協力者を募って、老人保健施設、特別養護老人ホ−ムあるいは有料老人ホームの訪問歯科診療を行っている。ひとつの老人保健施設には、施設内に歯科診療室を設け、毎月入所者健診も行っている。訪問斡旋業者による歯科医の斡旋を受けて、訪問歯科を受け容れている施設も少なくない。このように高齢者施設は、何らかのかたちで訪問歯科のアプローチを受けているものと考えられる。もちろん高齢者の数から言えば、このような訪問歯科診療を受けている人たちはまだ少数で、家族介護の圧倒的多数は、余程緊急明確な受診動機をもたない限り自ら手を挙げることはないのが現状だろう。

治療ニーズが表に出て来ない施設訪問歯科

もし、差し当たって治療ニーズに基づく前者が重要で、いわば生活の質をケアすることを目的とした後者は、余剰のサービスであるかのような受け止め方があるとすれば、それは誤りである。

これはちょうど、従来の歯科の保険医療機関が、むし歯が痛くなって患者が来院するのをまって、歯髄処置をして歯を削って詰める治療<ドリル・フィル・ビル>を続けてきたのに対して、本来的に歯科診療所は予防的なケアと健康維持のメインテナンスを主たる役割とする「かかりつけ歯科医」になるべきだ、とする議論と同じで、在宅や施設の高齢者の場合も、介護予防や生活の質の向上のために、本人の気付きを呼び起こしていくような診療のあり方こそが求められているのである。

痴呆のグループホームで、未だ成果を挙げられていない

歯科診療は、診療室で患者が来るのを「待つ」医療である。当然、患者は明確な治療ニーズ=主訴を抱えている。これに慣れきった頭で施設を訪問し、「何か具合の悪いところある人」を探し、なければ「口腔清掃」をするというのが、どうも一般的なスタイルらしい。喩えは悪いが、これでは押し売りが玄関先で「何か欲しいものありませんか」と尋ねているようなものだ。

「口腔清掃」は、提供できるサービスのひとつのメニューに過ぎない。「滑舌の状態を調べて発音の練習→必要な義歯治療」「食べにくいピーナッツを用意して、咀嚼検査→必要な義歯治療」「口笛の検査→口腔周囲筋の訓練」「笑う練習→口腔周囲筋の訓練」などなど、食べること、話すこと、笑うことなら、ある意味で何でもいいわけで、入所者の生活のリハビリにプラスになるような意欲ある取り組みこそが施設訪問歯科に求められているものではないだろうか。もちろん収支が合わなくなってまでリハビリを続けろと言っているのではない。経営コンサルタント風に言えば、治療ニーズの掘り起こしである。これはすぐに歯科診療所の収益につながるものではないが、施設訪問歯科の価値を飛躍的に高めることになろう。

グループホームの入所者は多かれ少なかれ認知症の要介護者だが、このような高齢者は、満たされない思いを抱きながら、その願望のレベルを下げることで現実を受け容れている。そうして次第に生活の質を自ら下げて、自らの殻の中に閉じこもっていくのだが、本来生活の質をケアするのが本分である歯科では、これを放置していては話にならない。歯科医療者が高齢者に関わるからには、何か少しでも生活をエンジョイできるように介入していくべきだろう。結果的にそれが介護予防になるか、痴呆の改善になるか、それは別途に関連性が調べられるものだとしても、そのリハビリそのものが楽しく、嬉しいというような介入を少しでも考えるべきだろう。

この調査からは、多くの高齢者施設が施設単位で訪問歯科を利用していることが明らかになった。しかし、この調査では、残念ながらほとんどの施設訪問歯科では、通常診療室の歯科に期待される程度の決まり切ったことしかなされていない。このため、具体的に生活の質が上がったとする評価は例外的で、安価にケアを受けることができていることへの満足が聞かれるにとどまった。

本来、歯科的なケアが提供しうる健康度、生活の自立に関する効果は、非常に大きいものと期待されるが、サービスを受ける高齢者のニーズがはっきりしない施設単位の訪問診療では、必ずしも明確な効果を挙げるには至っていない。口腔機能の改善は、診療室においても歯科医師の技倆に依存するところが大きいが、訪問歯科を担う歯科チームには、診療室とは比較にならないアウェーの条件下で、グループホームでは認知症の高齢者に対応する高度な経験が求められ、比較的認知症の少ない有料老人ホームでも、単純に口腔衛生にとどまらない快適な咀嚼機能の回復など、高齢者のかかえる「食べる」「話す」問題を改善し、高齢者の生活の質を改善する高い能力が求められている。

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