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特別レポート集

インプラント事故報道の波紋 〜インプラント事故多発報道は、国民にどう受けとめられたか〜

vol.1 はじめに

国民生活センターの報道発表(2011年12月22日)に始まる一連のインプラント事故多発報道は、ひとときのインプラント好況にあった歯科医療界に大きな衝撃をもたらした。じつは、この国民生活センターの発表は、発表当初、新聞各紙においてほとんど完全に黙殺された。特定の医療行為をやり玉にあげたセンセーショナルなテーマだったにもかかわらず、発表直後には主要日刊紙の記事にはなっていないのである。唯一NHKの一人の記者だけが、この発表を無視できない重要なものと考え、地道な取材を重ねて、2012年 1月18日のNHKニュース番組「おはよう日本 と「クローズアップ現代:歯科インプラント--トラブル急増の理由、1月20日の「あさイチ」で取り上げた。このクローズアップ現代は、ニュース解説番組としては注目度が高く(この回の視聴率は9.5%)、その後の新聞、週刊誌のインプラント事故多発報道は、ほぼクローズアップ現代のストーリーを後追いするものとなった。クローズアップ現代を見て、反古にしていた国民生活インターの発表資料を引き出しの中から探し出し、改めてクローズアップ現代のストーリーをトレースするような記事が書かれたのである。

NHKの米原達生記者が考えたストーリーは、「歯科医師過剰で経営的に苦しくなった歯科医師が、十分な教育を受けずにメーカー主導でインプラント治療に手を出したために事故が多発している」というものである。

このストーリーを組み立てる状況証拠は十分だった。歯科医院はコンビニの1.7倍に増え、1窓口あたりの保険収入は逓減傾向にあり、いくつものインプラントメーカーと輸入商社が競って研修コースを開いて顧客を囲い込んでいる。歯科雑誌の巻末広告ページからは、インプラント研修会がひしめいている様子が見て取れる。

国民生活センターの報道発表(添付資料)は、「歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に-」と表題されているように、「身体的トラブル」にフォーカスをあてたものだった。従来、歯科に関する相談やトラブルの大半は、治療や費用に関する不満で、この発表でも歯科に関する全相談事例に占める「インプラント治療」の相談は16.0%、さらに「身体的トラブル」は、そのうちの16.4%(全歯科相談の2.6%,5年間で343件)に留まったが、国民生活センター側はこの数字を見逃せないものと考え、そこをクローズアップして『歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に』と題して報道発表したのである。しかし、おそらくNHKの一人の記者を例外に、報道関係者は国民生活センターの報道発表を取るに足らないものだと考えたのであろう。なぜなら、歯科の自費治療についてのクレームは、いまさら珍しいものではない。記者発表、報道資料は毎日嫌というほどある。よほど重大な事柄でない限り、珍しくもない話題を採り上げる余裕はない。5年間で343件ということは、1年間で70件足らずのクレームである。「ドッポウ(独立行政法人)の発表記事は、『仕分け』を免れるための自己宣伝。 記者クラブ詰めの記者は、そういう先入観をもっている。経験の浅いクラブ詰めの記者か、遊んでばかりで記事づくりに困っている夕刊紙の記者が紙面を埋めるために記事化する素材に過ぎない。おそらくは、このような事情で記事にならなかったものと思われる。

その発表資料が、繰り返し報道されるようになったのは、NHK記者によってつくられたストーリーが説得力をもったからである。

調査仮説

この報道は、歯科医療者からはインプラント需要減退の契機としてやり玉に挙げられる。報道が悪いという歯科医療関係者の主張が正しいとすれば、影響は大きいとはいえ一過性のものと考えられる。熱が冷めれば元どおりになるだろう。しかし、この報道が、広く国民の中にある歯科医療あるいはインプラント療法への不信を呼び覚ましたのであるとすれば、インプラントという治療法の信頼は時間の経過だけでは回復しない。(調査仮説1)。つまりこれまでの状態が、むしろ実態を伴わない仮初めの活況、「インプラントバブル」だったと考えるべきで、腰折れ状態になったインプラントの需要は徐々に回復するであろうが、V字回復する見通しはない。

また後追いの報道では、「歯科医師過剰による経済的圧力」→「未熟な歯科医が無理なインプラント治療をする」→「事故の多発」という、ほぼ同じストーリーが繰り返された。このストーリーは、必ずしも事実に即してはいないが、広く信じられたのではないだろうか(調査仮説2)。 そうであれば、事実の如何にかかわらず、このストーリーは今後も繰り返されるであろう。歯科医療をめぐる国民の理解において、このストーリーは繰り返し登場し、歯科医療者を悩ますことになろう。遅きに失したとはいえ、歯科医師団体とくにインプラント関係学会は、医療の質を担保するための何らかの自律的な施策を講じなければならない。

調査の対象と方法

この調査は、楽天リサーチモニターを対象に、シェアテック・リサーチラボが主体となり、秋元秀俊(有限会社 秋編集事務所)と伊藤修一(メディカル・コミュニケーションズ)が協力するかたちで行った。楽天リサーチモニターは、楽天市場、楽天トラベルなど楽天グループのインターネットサービスを利用する約7,500万人のユーザーのうち、約220万人(2012年調査時現在)がアンケート回答者として登録するマーケット調査のシステムである。回答者の条件として、40歳以上の男女各150人で、世帯所得800万円以上を満たす回答希望者を募った。調査期間は、2012年9月第4週で、回答者が男女別に各々150人になったところで締め切った。

調査対象:楽天リサーチモニター
要件:40歳以上、世帯所得800万円以上
回答者数:300人(男性150人、女性150人)

回答者の性別年齢層は次のとおりである。インターネットを利用した調査であるため、国民の年齢階層別人口構成に比較すると高齢者の回答者構成比が小さくなっている。

40代129人43.0%
50代136人45.3%
60代30人10.0%
70代5人1.7%
グラフ

●インプラント経験者+インプラント待期患者群=27%
次に、回答者のインプラント治療経験は、以下のとおりである。

■Q1. 歯科インプラントの治療について、あなたにもっともあてはまるものをお答えください。
グラフ

回答者の8%(男女計24人)はインプラント受療経験をもっており、19%(57人)はインプラント治療を検討している(少し関心をもっている)。これは40〜50歳に年齢が偏った回答者群の平均的な姿と考えることに無理はない。この二つ目のグループ(インプラント治療を検討している)は、この調査では仮にインプラント待期患者群と名付ける。

回答者のうち55.3%(166人)はインプラント治療の必要性がないと考えており、17.7%(53人)は「インプラント治療というものにまったく関心がなく、知らない」。今回のインプラント事故報道の影響について、「待機者」と「無関心」の2群について対比すると、インプラント治療の今後に与える影響を推測することができるように思われる。

このインプラント経験を年齢別にみると、次のとおりで、年齢階層によるインプラント経験(自覚)の偏りはほとんどない。

グラフ

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